工学のトビラ
  1. Home
  2. 工学のトビラ
  3. 打音を用いた橋梁点検 ~音の分析~

打音を用いた橋梁点検
~音の分析~

2021.04.12
  • #三角関数
  • #反射
  • #音

日本全国には約72万の橋が存在しますが,10年後にはその約6割が建設後50年を経過するため,老朽化による事故が起こることが心配されています.そのため,橋については5年に1回程度の定期検査が行われており,その検査方法の一つに打音検査(下図参照)があり,コンクリート表面の剥落の危険性が調べられています.

①打音検査は,ハンマーで橋の表面を叩いた時に発生する音で内部状態を把握する検査です.打撃を受けた橋は振動し,その揺れは周囲の空気を揺らし,生じた空気振動は遠くまで伝わり,人の鼓膜を振動させることで音として認識されます.音の正体となる空気の振動は,下図のように,波の進行方向と媒質の振動方向が同じ縦波(疎密波)となります.

② 音には、大きさ(音圧)・高さ(周波数)・音色(異なる周波数の調和)の3要素があり,打音検査は,これら3要素にコンクリート内部の欠陥が与える影響に着目して診断を行います.



実際の打音は複雑な波形となりますが,数学的には,様々な周期を持つ正弦波(sin)と余弦波(cos)の和で表すことができ、これをフーリエ級数展開といいます.

⑤

橋の打音検査で計測した健全部と欠陥部の実際の波形を下図に示しますが,このような周期性がなく複雑な波を三角関数の和で表現し,各周波数の波がどの程度の大きさで含まれているか(振幅比)を比較すれば,様々な音を詳細に分類できます.この例では,欠陥部とはひび割れや浮きが生じている部分でありますが,健全部との違いを見てとれます。このことを利用して,多くの老朽化した橋の打音データを収録し,コンクリート表面の剥落事故を起こしそうな橋の音と同種の音を見つけることで, 事故を未然に防ぐことができるのです.

⑥最近は,ドローンによる打音検査やAIシステムを用いた診断などの技術開発も盛んに行われています.

(九州大学 玉井宏樹)

  • Facebookでシェア
  • ツイッター