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自動運転と物理と数学
~アダプティブクルーズコントロール~

2019.08.22
  • #力のつりあい
  • #微分
  • #物体の運動

高速道路や渋滞道路を長時間運転する場合,自動車のクルーズ機能を利用すると運転がとても楽になります.単純なクルーズ機能とはドライバーの代わりにアクセル操作を自動で行って設定した車速走行を可能にするものであり,既に一部の自動車に搭載されています.主に,自動車前方に配置されたカメラセンサを用いて環境認識をしています.
中学・高校の物理では,質点がばねで壁につながれたときに生じる単振動について習います.下図において、質点に空気抵抗のような減衰力が作用しない場合(c=0)には,質点は振幅が変化することなく振動し続けます.一方,減衰力が作用するとき(c>0)には,質点は振幅が小さくなりながら振動し,最終的にはばねが自然長となる位置で停止します.

qsee-005-00025 図
このような質点の運動は「質量×加速度=質点に作用する力」の関係を用いて,次の微分方程式で表すことができます.
qsee-005-00025 数式
ここで,xは質点の釣り合いの位置からの変位,tは時間であり,式の左辺のmは質量,d^2 x/〖dt〗^2は質点の加速度,右辺の-cdx/dtは質点に作用する減衰力(減衰係数c,速度dx/dt),-kxはばねの復元力(ばね定数k)を表します.なおここでの減衰力には,速度に比例する粘性減衰モデルを用いています.
前の車との車間距離を一定に保つ制御法をアダプティブクルーズコントロールといい,この制御法では前述の微分方程式の解の挙動を利用します.先行する自動車に追従する自動車の運動を単純化すると,上で示した質点-ばね-減衰系のモデルとして考えることができます.まず下図のように前の自動車との車間距離(xに対応)と,相対速度(dx/dtに対応)の2つを計測します.その計測値を利用して,微分方程式を満たすようにアクセル入力やブレーキ入力(復元力や減衰力に相当)を決めれば,仮に前方車両が加減速を繰り返したとしても,前の車との車間距離をそれなりの正確さで一定に保つ制御ができます.

qsee-005-00025 図2

(熊本大学 岡島 寛)

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