下の写真は,とある鉄筋コンクリート製の構造物を示しています.鉄筋コンクリートとは,コンクリート内に鉄筋を入れて強くしたもので,橋や建物など多くの構造物に採用されています.ただ,この写真では,茶色の錆汁が表面に見えていたり,錆びた鉄筋がむき出しになっていたりしているのがわかります.歳をとった(建設後,数十年経過した)構造物はその周辺環境によっては,このように鉄筋が錆びて劣化する場合があります.
では,鉄はアルカリ下では酸化しないはずなのに,強アルカリ性であるコンクリート*の中にある鉄筋はなぜ錆びるのでしょうか?実は,そこには化学反応が大いに関係しています.コンクリート内の鉄筋表面は,コンクリートのアルカリにより不動態皮膜(金属表面の腐食作用に抵抗する酸化皮膜)と呼ばれる膜で覆われているため,一般的には腐食しません.しかし,海水などの塩化物イオンがコンクリート表面から浸透し,その膜を破壊することで,鉄筋表面が酸化しやすくなり,錆びてしまいます.
図に示すように,鉄がイオン化するアノード反応(酸化反応)と酸素が還元するカソード反応(還元反応)で腐食電池を形成し,全反応として,最終的に錆である水酸化第二鉄Fe(OH)2を生じさせます.つまり,電荷(電子やイオン)の移動を伴う電気化学的反応によって,コンクリート内の鉄は錆びるのです.鉄の錆は体積膨張を伴い,その膨張圧によってコンクリートにひび割れや剥離を生じさせることもありますので,錆びさせないための対策が必要となります。塩化物イオンの侵入を防ぐこと以外の対策として,鋼材表面にマイナスの直流電流を流して,腐食電池を形成させないようにする電気防食といった対策もあります.
*コンクリートの強アルカリ性は,セメントと水との反応(水和反応)で生成する水酸化カルシウムCa(OH)2によるもので、㏗12~13を示します.
(九州大学 玉井宏樹)
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