紙のうつわでグツグツ.紙のうつわを火にかけているのに紙は燃えていませんね.
うつわの中を見てみると,スープがグツグツと沸いています.スープ(水)が沸く(沸騰する)ために,水の温度は大気圧下で沸点の100℃を超えることはなく,水に接している紙の温度も100℃近くに保たれるため,紙は燃えないのです(紙の燃焼温度は200~300℃).ここでは,火の熱エネルギーを水が気化熱(蒸発熱)として吸収しています.
1kgの水の温度を10℃上げるためには,わずか42kJの熱ですみますが,同じ1kgの水を大気圧下で全て蒸発させるためには2256kJと大量の熱が必要となります.それゆえに,うつわの中ではスープがなかなか減らないのです.
この原理が「冷却」に応用されています.すなわち,水を蒸発させるために多くの熱が必要であることは,水が蒸発すると周囲から多くの熱を奪うことになります.100℃の水の飽和蒸気圧は1気圧です.つまり水の沸点は大気圧下で100℃ですが,圧力を大気圧以下に下げることによって,あるいは大気圧で沸点がより低い液体を用いることによって,室温以下の低い温度でも液体を沸騰させて様々なモノを冷却(沸騰冷却)することができます.下図はその一例で,発熱面を冷却しています.沸騰が生じると周囲から大量の熱を蒸発熱として吸収するため,効率的に冷却することができます.例えば,パソコンをはじめとする電子機器の発熱対策(蒸発熱や凝縮熱を熱伝達に利用したヒートパイプ)や製鉄所での高温鋼板の水スプレー冷却,さらにはエアコンや冷蔵庫など,沸騰冷却は工業プロセスや身の回りのいろいろなところで利用されています.
沸騰冷却の一例
(熊本大学 小糸康志)
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